第十九篇 秤等す夢幻の理想郷 V
著者:shauna
「そうか・・・シルフィリアはいないのか・・・残念だな・・・。」
そう言うシュピアには残念そうなところは一切見受けられなかった。
「でも・・・もしかしたら、君達を甚振れば・・・彼女も出てこざるを得ない・・・。悪いが・・・死んでもらうよ?」
怪しく笑うシュピア・・・
それに対して、
「・・・シュピアさん・・・。」
後ろで黙っていたロビンが声を上げた。
「もうやめて下さい。こんなこと・・・こんなことをして、誰が得をするって言うんですか・・・。魔法は万人の為にあるモノ・・・。すべての魔術は人の傍らにある良き隣人であり、すべての魔術は人を幸せにするための力である・・・。魔道教習センターでも教えられている基本中の基本です。。、なのになぜ・・・あなたはこんな事をするんですか!!!意味なんてないじゃないですか!!!」
情熱的なロビンの言葉・・・。そして、それは誰しもが共感できるはずのモノだった。魔術とは人を助けるためのもの・・・。それを独占しようとする”空の雪”の思想は大きく間違っている・・・。
だが、当の空の雪の一人であるシュピアは・・・
「何を言ってるんだ・・・」
そう冷たく突き放した。
「魔術とは力。そして、力を持っていいのはそれを御する知恵のある者だけだ。そして、その知恵を持つ者こそが世界に認められる魔道士達の集まり。つまり、魔道学会なのだよ・・・。決して、君の言う全ての衆愚達では無くてね・・・。」
その言葉に流石のロビンも怒りが込み上げてくる。
「フザけないでください!!!!少なくとも魔法技術の発展に尽くしてきたこれまでの聡明なる魔道士達はそんなことを考えていなかったはずです!!!人の生活を少しでも便利にしようと・・・富める者も貧しい者も大人も子供も平等に生きられるようにする為に・・・その為に魔術の開発を・・・」
「黙れ!!!!」
いきなり発せられたシュピアの怒りの声にロビンは悔しそうに口を噤む。
「いいか、ロビン・・・。魔術を開発したのが魔道学会なら、衆愚が魔道学会に従うのは当然のことだろう?何故それが分からない・・。」
「・・・・・・分かりたくもありません!!」
「お前だけじゃない。魔道学会のバカな魔道士達もお前と同意見のクズばかりだ!!そのせいで、聖蒼貴族のような組織がいい気になる!!!何が恒久的世界平和のためだ!!!やってることはテロリスト共や馬鹿な革命家共となんら変わらないじゃないか!!そして、どの国もその力を恐れて何の対策もしようとしない!!!」
「それは、聖蒼貴族が正しい組織だからでしょ!?」
「黙れ!!!」
サーラの言葉にもシュピアは怒り心頭の様子で再び声を張り上げた。
「あんな危険な組織を野放しにしていいはずがないだろ!!!世界平和に必要なのは”悪の貴族”、”世界の番犬”などと呼ばれる組織では無い!!!魔道学会で十分だ!!!そして、番犬は必ず誰かにリードを持たれて然るべき!!!それが魔道学会で何が悪い!!!」
・・・・・・
その言葉についに温厚なサーラがブチキレた。
「あなたね!!!!」
しかし・・・
怒鳴ろうとした矢先にファルカスがスッと左腕を出して彼女を止める。
「ファル!!!言わせて!!!」
「ほっとけ・・・馬鹿に付ける薬はない・・・。」
その言葉をシュピアも聞き逃さなかった。
「馬鹿・・・だと・・・」
彼の額に青筋が立つ。
「ふざけるな!!!魔術の成り立ちのマの字も知らないような愚民が!!」
「あ〜ぁ・・・わかったわかった・・・。」
そう言ってファルカスは再び剣を構え直す。
「馬鹿とじゃ・・・どうせ口げんかしても一言一言が理にかなって無さ過ぎて決着つかないだろ・・・。来な。あんただってその剣のおかげでそれなりにできるんだろ?」
「ゴミが・・・」
小さな舌打ちと共に、シュピアも手に持ったエクスカリバーを構えた。
「所詮、愚民には我らの崇高なる考えを理解する力もないか・・・。」
数秒後・・・2人の間に火花が飛び合った。
※ ※ ※
痛みをこらえて尚もシルフィリアの詠唱は続く。
『霊冥へと導く破邪の煌めきよ 我が声を聞かん。聖なる言霊 永久に紡がれん。』
この魔術は自身が持つ魔術の中でも最長の詠唱を持つ。そして、術式が完成しても放てるのは一度のみ・・・。決して間違いがあってはならない・・・。
『天光満つる処 滄溟(そうめい)たる波濤(はとう) 焔(ほむら)の御志(みし) 悠久の時を紡ぐ優しき風に我は命ず』
一言一言を丁寧に口にしながら尚も詠唱は続く・・・。
シュピアのエクスカリバーとファルカスのエアブレードがぶつかった瞬間・・・リオンが即座にエアダガーを取り出して、ファルカスに向けて走り出した。
「その首!!!貰った!!!」
しかし、ファルカスの元にその剣撃が届くことは無かった。
なぜなら・・・
「うぐっ・・・貴様!!!」
ロビンがその両方のナイフを二本のエアブレードで完全に止めたのだ。
「勘違いしないでいただきたい。あなたの相手は・・・この僕です。」
一撃目でファルカスの5本持っていた内の一本目のエアブレードが粉々に砕け散ってしまった。流石は世界最強の聖剣・・・。ただものじゃない・・・。腰に帯びた二本目のエアブレードを抜きながらファルカスはそれを実感する。
「今の一撃で分かっただろう?私の力は君を遥かに凌いでいる。去れ・・・。命が惜しければな・・・。」
「本当に凌いでるか・・・試してみるさ・・・。」
再びエアブレードを構え、ファルカスは静かに構えを作った。
先にファルカスが仕掛ける。上段からの斬り込み。しかし、これをシュピアはは左に受け流すとそのままファルカスの腕を切りつけようとする。しかし、これをファルカスは見切り、下段、上段、下段と数度にわたり斬り付け、僅かな隙を生んでいたシュピアの両足めがけて一気に剣を振る。だが、これもシュピアはジャンプして避け、再び両者は一定の距離を置く。
「なんだ・・・口は達者だが、剣の腕はシルフィリア以下か?」
尚も軽々とエクスカリバーを振り回し攻撃してくるシュピアにファルカスはそのまま斬りつけそのまま鍔迫り合い。
「どうした?それで精いっぱいか?」
シュピアの挑発など一切気にせずにファルカスは剣を大きく動かしてシュピアのエクスカリバーを払う。すると・・・
「くっ・・・」
またエアブレードに致命的なひびが入っていた。捨てて3本目のエアブレードを抜きはらう。
そして・・・再び一瞬の判断が命取りになる超高速の殺陣が始まる。
上段、下段、上段と剣がぶつかり合い、最後の一撃の衝撃でファルカスは軽く跳ね飛ばされたがすぐに片足で体制を立て直し、再び構えを作る。
そのまま上、下、上の鍔迫り合い・・・。
そして、その後にお互いが強く打ち合い、お互いの剣が弾かれる。
しかし、そんなことはなかったかのような早さの立て直しで再び鍔迫り合いに持ち込む。
ここまではおおむね互角・・・。
否・・・それは違う・・・。
息が上がっているファルカスに対し、シュピアは呼吸一つ乱れて無かった。
鍔迫り合いをしている今もファルカスは徐々に押されてしまう・・・。そして・・・
「グぁ!!!」
僅かに負けてしまった。シュピアが鍔迫り合い状態の中、回転させるように刃を動かし、ファルカスの肩を切りつけたのだった。
痛みに僅かに後ろに退いたファルカスにシュピアは容赦なく連撃を与え、僅かではあるが腿を切りつけた。
しかし、完全に押しているかに思われるシュピアだが、ファルカスだって負けているわけでは無い。
腿を切りつけられる際に僅かに身を引いて、足が斬り落とされるのを防いだのだ。
「どうしたんだ?血が出てるぞ?」
そう言ってシュピアはエクスカリバーの刀身からこぼれてくるファルカスの血液を手元に雫として落とす・・・。だが・・・その瞬間・・・バスッとシュピアの手のひらにも確かな刀傷が刻まれていた。
「な!?」
驚くシュピアにファルカスは嘲笑する。
「おいおい、どうしたんだ?血が出てるぞ?」
それを聞いてシュピアも剣を握り直す。
「じゃあ、少し本気で行こうか・・・。」
そう言って、一気にファルカスとの距離を詰め、大きくエクスカリバーを薙いだ。
それをファルカスはバックステップで交わすが、今度はシュピアがそれを利用して彼の肩に手をかけての空中回転で背後に回り込む。しかし、ファルカスもすぐに振り返り、再び激しい剣劇・・・。シュピアが大きく薙げばファルカスはスライディングで身をかわし、それを読んでいたシュピアはそちらに向けて大きく跳躍し、再び剣撃・・・。
もはや、それは人の動きでは無かった。エクスカリバーは絶対的な力で主人を動かし、その動きを見てファルカスは暗闇の牙(ダーク・ファング)時代の殺し合いを思い出しながら実力を上げる。
しかし、状況は段々とシュピアに傾いていくことになる。
※ ※ ※
詠唱は正確に尚且つ出来るだけ早く!!!その一心でシルフィリアは詠唱を続ける。
『無慈悲なる白銀の包容 清冽(せいれつ)なる棺 大いなるマナ 我の意志を綴れ
大気を綴りし精霊よ 清浄なる旋律を奏でよ 万物に宿りし生命の息吹よ 我が名を紡げ』
ファルカス達の安全だけを願って・・・。
このままいけば、おそらくエクスカリバーを持つ自分の勝ちとなるだろう。
だがしかし・・・。それには後何時間かかるか分かったものでは無い。
そして、その間に幻影の白孔雀がどう動くかも分かったものでは無い。
下手をされると負けるとは言わないが厄介だ。
なら・・・こうすればいい・・・。
数十回という回数を重ね、ファルカスもとうとう最後のエアブレードを抜き、激しすぎるぶつかりあいの最中・・・
「おい、馬鹿・・・。」
鍔迫り合いの最中、シュピアが話しかける。
「なんだ、馬鹿・・・。」
「今からお前に・・・高貴なる魔道学会の術というモノを見せてやろう・・・。」
そういうとシュピアはエクスカリバーを両手持ちから肩手持ちに替え・・・
軽やかな舞を思わせるフォームでファルカスに突っ込んだ。
一方でその頃・・・中に入れないスカルヘッド達がわらわらとまるで光に集まる虫の如く蠢く聖堂の入口に・・・一人の男が来ていた。
全身を真っ黒なローブで覆い、手には真っ直ぐな木の棒を持って、ゆっくりと聖堂に近づいて行く・・・。
そして、その存在に気が付いたスカルヘッドによって即座に囲まれた。
しかし、男はただひたすらに聖堂を目指しゆっくりと歩みを進める。
それに合わせるようにスカルヘッドも動いていき・・・やがて・・・
一匹のスカルヘッドが手に持った錆びた剣で、その男に襲いかかった。
それに対し男は静かに杖を振るった。
そして、男が振った杖をトンッと優しく地面に突くと・・・
襲いかかったスカルヘッドは胸から真っ二つになって崩れ去る・・・。まるで鋭利な刃物で切り付けられたかのように・・・
「・・・普段なら・・・雑魚は下がれという所だけど・・・、こいつらには時間の無駄か・・・。」
その言葉を合図にするが如く、スカルヘッドが一斉に襲い掛かる。
だが、それに対しても男は常に冷静だった。
左手に逆手で持った杖から右手で刀を抜く。俗に言う仕込杖・・・。
そして、抜いた刀でまず手始めに一匹目を切り裂くと剣を返し、二匹目。三匹目の顔を左手に持った鞘で殴りつけ、流れるように四匹目を串刺しにした後で、三匹目にとどめを刺す。
五匹目を逆袈裟に切り上げて、返した剣で六匹目を切り下げる。
敵に反撃する暇など与えない一切の隙を見せぬ剣術・・・。
それを目の当たりにしたスカルヘッドは二十五匹が殺られた時点でジリジリと身を引いた。
「そうそう・・・いい子だ・・・。そのまま大人しくしてれば死なないでアッチの世界に戻れるぞ。」
男はそう呟くと刀を大きく振り、刀身についた骨のカスを払い落して、静かに刀を鞘に戻す。
そして、ゆっくりと聖堂の中に入って行った。
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